元泌尿器科科長 北嶋 将之

最近よく前立腺肥大症、前立腺癌という言葉を耳にしますが、いったいどういう病気なのでしょうか?今日はその2つを中心に説明させて頂きたいと思います。

1.前立腺はどこにあるのか?

前立腺は骨盤内にあり膀胱の出口から尿道をドーナツ状に取り囲んだ臓器です。(図1)
正常な大きさはクルミ大で重量は20グラムほどです。図1を見て頂くとわかりますが、直腸と接しています。前立腺の検診で直腸診を行うのはこのためです。

2.前立腺の働き

精液の一部である前立腺分泌液を分泌します。

3.前立腺の構造

前立腺の構造は大きく分けると図2のように尿道を取り囲む移行域(内腺)とその外側の辺縁領域(外腺)とからなっています。前立腺肥大症は主に内腺の組織が増殖し尿道を圧迫するために生じます。前立腺癌は肥大症とは逆におもに外側の外腺から発生します。

まず良性疾患である前立腺肥大症です。

【前立腺肥大症】

前立腺肥大症は泌尿器科を受診される方で最も多い疾患の一つです。

1.発生機序

すべてが解明されているわけではありませんが、男性ホルモンの分泌と加齢が関わっています。

2.症状

排尿時間の延長、尿線の細小化、残尿の貯留、頻尿(特に夜間3回以上のものは夜間頻尿)、残尿感、尿意切迫、切迫性尿失禁があります。特に残尿が増え、排尿ができなくなった状態を尿閉といいます。重症の肥大症の方は飲酒後や風邪薬の内服後に尿閉になる場合があります。

3.治療

主に薬物による治療が中心ですが、まず後述する前立腺がんを否定した上で行っていきます。薬物の効果がない場合、様々な治療法がありますが最も効果的な治療法は手術になります。手術は経尿道的に内視鏡で前立腺を切除するTUR-Pという術式が標準術式となります。下半身麻酔で行い、入院も1週間程度です。

次は悪性疾患である前立腺癌です。

【前立腺癌】

前立腺癌が欧米諸国の男性悪性腫瘍のなかで最も頻度の高いものの一つで、特に米国では、発生率第1位、死亡率が肺癌に次いで第2位となっています。今後日本でも高齢化、食事の欧米化、診断技術の向上に伴いその頻度は急増すると予想されます。

1.発生機序

原因、リスクファクターとしては様々なものがあげられています。加齢、遺伝、活発な性活動(前立腺癌は男性ホルモン依存性のため)、食事(動物性脂肪の過剰摂取)、喫煙等があります。ちなみに癌を予防する食事として、大豆、緑黄色野菜があげられています。

2.症状

早期の段階で症状は特にありませんが、癌組織が先述した外腺から徐々に大きく成長した場合、結局それより内腺も圧迫されますから、前立腺肥大症と似た症状が出てきます。よってその症状が肥大症によるものなのか、癌によるものなのかを鑑別することが非常に重要です。

3.PSAについて

現在前立腺癌を最も早期に見つける方法は血液検査です。PSA(前立腺特異抗原)という前立腺上皮から分泌される蛋白分解酵素を計測します。4ng/ml以下が正常値とされています。4ng/ml以上の場合は癌の可能性があるため、経直腸的に前立腺に針を刺し、組織を採取し(前立腺生検)、顕微鏡で診断します。

4.治療

PSAの値、画像検査、経過から早期癌(癌が前立腺に限局している場合)の可能性があれば、手術もしくは放射線治療を行います。進行癌の場合は内科的治療(男性ホルモンを抑える注射)を行います。
泌尿器科は受診すること自体少し抵抗のある科と思われがちですが、前立腺肥大症の症状のある方は勿論のこと、ない方もPSAだけでも気軽にチェックされてはいかがでしょうか?

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